(少年16歳頃の遺留品には、たびたび「博士」が登場する。「博士」とは誰か)

研究 :

少年の恋人像「博士」

「博士」とは、「男性少年愛者な恋人」ほどの意味で使われている概念である。

 まず、ガイコツ博士という理想像がいた。これは、少年愛的情緒をこめた「少年怪奇圓」という作品構想上のキャラクターであった。少年愛における少年になることを望んだ中学3年の冬に構想したものである。

少年作イラスト ガイコツ博士
(成立時期:成立時期:中学3年2〜3月頃)

 この老紳士は、当時描かれたキャラクター相関図をみると、美少年青蔭くん(参照:《開花篇》「初藍緑」)とハートマークの仲である(下図左)

少年作キャラクター相関図
(成立時期:高校1年10月末〜12月頃)

 ガイコツ博士を端緒に、いろいろな「博士」像を構想するようになる。例えば、日記にこうある。

夜空に博士と助手を描く。すると流れ星がキラリと流れていった。なんてラッキーなのだろう。ちょうど願っていたときに流れてきた。星よ、僕の願いを叶えておくれよっ!年最初の絵は、あの叢で、あの空に瞳を耀かし、博士と二人でいる。夜空の星には少年と僕と友がいる・・・そういうものにした。

(成立時期:高校1年12月31日)

 少年の残したノートにはその絵も残っている。仲睦まじい二人である。

少年作イラスト 博士とよりそう少年
(成立時期:高校1年1月1日)

 また、このノートには理想的将来の年表らしきものが書かれているが、それによると、少年でなくなった将来は、「博士」になって、まんがを描くらしい。

「博士」になるために「研究」と「発明」をくりかえす。僕は将来、博士号をもたない「博士」になってやる。この世にあやしさと美しさを発(ばら)まいて、夢を出現させてやる。そうすれば世界は夢現(ゆめうつつ)になる。他の人の絵や小説やマンガをみたり、妖怪をおいかけたりして「研究」しよう。まんがに描いて「発明」しよう。僕のまんがを「発明」していきたい。

(成立時期:高校1年末頃)

「研究」と「発明」を為す人としての「博士」像であるが、少年愛とも不可分であるらしく、同表60歳の理想にはこうある。

みためも「博士」らしくなって中身も「博士」となり、「助手」ができる。マンガの助手(アシスタント)ではなく、自分が16歳のころ夢みていた、あの「助手」である。博士と助手は夢現の世界へ旅たつ、というかそここそ我が故郷ナリ。そして形がなくなる形になる。もちろん僕は少年の形になる。

 また、日記によると、夢に登場した青木研二郎(参照:《電子化篇》少年の日記)も、15歳のときの創作(参照:《開花篇》「使給人」)に登場させた猿山も「博士」の仲間らしい。

ヤッパリ、僕は博士が大切だよ。先の青木研二郎さんなんかも、“怪人屋”というより“博士”に近い。と、いうよりありゃあもう立派な博士だ。陶芸品を発明、出現するんだから。今から約一年程前、僕が幻の中で、「今から一年後のにもやってくるだろう寒い冬に、一緒に遊びたい。」と願った、猿山正さんも詩人だから詩の博士だ。

(成立時期:高校1年12月28日)

 ここでは、博士の類似概念のようなかたちで、「怪人屋」の語も使われている。

「怪人屋」は「少年怪奇圓」キャラクター相関図の右上にも描かれている「怪人屋さん」が端緒である。同図をみると、怪人屋さんは「つぐおくん」という坊主頭の美少年とハートマークの仲であり、やはり少年愛者である。

 少年の愛読書『世紀末少年誌』所収「乱歩のひそかなる情熱」は、江戸川乱歩「少年探偵団」シリーズにおける怪人二十面相を、「美少年誘拐者の面影」がちらついていて、小林少年をめぐって明智探偵との「スリリングな三角関係」が読み取れるとしている。このあたりが「怪人屋」のイメージ源であろう。

「怪人屋」は、「博士」の少し悪玉なヴァージョンであるらしい。「怪人屋」よりも「博士」の出現を夢見ている少年にとって、少年愛は良心とともにあらねばならない。

 理想に良心の枷(かせ)を科し、何事もなく16歳が終わる頃にも、「博士」はいた。初めての一人旅、天狗伝説がある山中を訪れた少年(「天狗、或は美少年誘拐者」も『世紀末少年誌』所収)。たずさえたスケッチブックに、こんな絵と一文を遺している。

少年作イラスト 博士
博士、博士。僕は助手になりたい。博士、僕を役立たずの少年助手にして。

(成立時期:高校2年7月19〜21日頃)

(そうして、博士にも怪人にも天狗にも会わず)

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