(少年大好きな砂井少年は、むしろ自ら少年愛の意味での少年となる志を開花。ほどなく美少年への初恋で死んだかにみえたが、志を新たに蘇生した。そんな冬休みのある日・・・)

遺留品 : 砂井少年16歳の

日記抄

(12月24日)
 散歩でもするかと思ったが、寒いし、いきたいところもない。さびしくなって家に帰った。そのあとフザケて妹とマニキュア(ラメ入り)を塗ったくって遊んだ。緑のだったのでなかなかキレイなもんだ。
(12月25日)
 いつもの悲しいキモチは夢の中につれていくことにした。「心理ゲームにあったような大人の男性と戀におちちゃう夢でもみよう」と、キモチを茶化した。
少年作イラスト 夢にみた大人の男性
(12月26日)
 まずはホントに昨日思ってたとうりになった夢のお話から…
 ここはとあるアイランド。黄緑色の大地、青色の山、赤色の屋根、白色の雲…
 そこに僕は住んでいる。里下城月若 (※1)のような僕。
(※中略)
 彼の名は青木研二郎といった。ガウディさん (※アントニオ・ガウディ)に似ている。シュヴァル爺さん(※フェルディナン・シュヴァル)にも似ている。けれども彼は建築家ではなく、陶芸家なのだった。白い立派なヒゲをはやした、無口で物静かで一寸怖いカンジのお爺さんだったが、まるで妖精のような色どりの服をきていた。背はとても高かったが、僕はリトル・ピープルの類だと思っていた。彼といるとなんだか怪奇な気分になって気持ちよかったから、本物の怪異の国の住人だと思っていた。半分くらい、そう思った。そういうふうに、僕は彼に未知なる怪奇性を希んでいたのかもしれない。彼はそういった僕のまぬけな気持ちをすべてうけとめるように――あるいはすべてききながすように――口をつぐみ、じっと動かずにいるのだった。
 作業場は明るかった。大きな窓から陽が差していたから。青木さんの目は深くくぼんでいて、白く長い眉がさらに瞳を暗闇にかくした。鼻は高く、額はつきでていた。青木さんのそういった特長(※特徴)ある、ほりの深い顔は窓から差した陽の中で、様々な形になった。僕の方がよく話しかける。と、いっても二言三言で、ろくにしゃべれない。うまくしゃべれないのはいつもだけど、青木さんの前ではとくにしゃべれない。青木さんの方は僕とは反対に、他のどんな人よりも、僕の前ではよくしゃべるようだ。でも二言三言だけどさ。土の香りの、陽の舞う作業場で二人だまっている。作業机に座ってあしをブラつかせて目をつむる僕。青木さんも目をつむっているようだけど、わかんない。影の中に瞳がある青木さんだから。
 近頃では僕も仕事を手伝ったりするんだ。博士と助手のようだ。「僕は役に立っている。」と勝手に思う。「君が来てくれてうれしい。」と、青木さんは言う。
 ある日、青木さんは、なんかのえらい人の命令で遠いところへいくことになった。青木さんの陶芸が認められたようなのだ。まぁ、あんまりくわしいことはわからない。お母さんから、そういうふうにきいただけだし、僕は青木さんがいなくなってしまうってことで頭がいっぱいだったのだ。お母さんと一緒にえらい人に認められてよかったね、と話しあった。いなくなっちゃうと少し寂しいね、とも話した。僕も「まぁ、話し相手がいなくなっちまったね。」と言ってみた。僕は入りくんだ道をつき進んでいった。母と一緒にあいさつにいったのだ。青木さんの作業場はさっぱりとかたづいていて、なんか嫌だった。青木さんとお母さんは大人らしくあいさつをかわしておわかれをしていた。僕はとつぜん「僕もつれていくよね。」と言ってしまった。「どうしたの?」とお母さんは笑顔で、やさしく僕にきいた。青木さんは顔のほりが深いので表状(※表情)はよみとれない。しかも無言だ。「僕もつれていくんだよね。青木さん。」青木さんは少し笑ったようだったが、それは僕の気のせいかもしれなかった。なんせ彼の顔は影が多くてよくみえないのだもの。僕は脅迫するように目玉を氷りつかせる。
 おしまい。せつないけど、いいきもちのおはなしでした。
 そんな風に戀してたら起きるの遅くなっちゃって、いそいでしたくをすると必ずなんか忘れる。今日はリップを忘れた。緑のラメ入りマニキュアはとれない。

(成立日時:高校1年12月24-6日)

注記 :

※1里下城月若)りかじょう・つきわか。一度みた夢の中で変身していた自身。若衆風の美少年。

少年作イラスト 月若,仲良しの男性
(成立時期:中学3年冬季)
少年作イラスト 月若
(成立時期:中学3年冬季)月若の銘記を消した跡

(特に何事もなかった)

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